「辛い時こそ辛いって泣かないと、心が壊れちゃうだろう? だからね、凛ちゃん」


無理して笑わなくていいんだよ。

無理して合わせなくていいんだよ。

いつだって、泣いてもいいんだよ。


女将さんの優しい声に、鼻の奥がツンとして。

唇を引き結び、顎を引くと目頭が熱くなって、一気に視界がぼやけた。

空気を求めて口を開く。

喉の奥を震わせ、ただ息を吸うだけのつもりが。


「……な、いで……」


思わず、零れた声。

それはずっとずっと私の中にしまい続けた自分でも発したことのない言葉。

発することが、怖かった言葉。


「私をっ……」


透明な雫が瞳から溢れて落ちる。

ぽたりぽたりと音を立てて畳を濡らして、私の心に巣食っていた叫びが、暗い水底を蹴って一気に浮上し……。


「捨てないで」


重さを持って、音になった。

その途端、涙腺が決壊し、嗚咽が零れ出る。

寂しいよ。

行かないで。

いいこでいるから。

頑張るから。


「ひとりに、しないで」


お母さん。


「凛ちゃん……」


都会はビルと人に溢れているのに、どうして私はひとりぼっちなの。

安らげるはずの家が、いつから息苦しい場所になってしまったのか。

女将さんは、帯を結ぶ手を止めて、代わりに私の背中をさすってくれる。

それが全部吐き出せと言われているみたいで。

私はひたすら、幼子のように泣き続けた。