女将さんの作ったお料理は、彼女の人柄のように今日も朝から私を元気付けてくれて。
だけど、今ばかりは食べないでいた方が良かったかなと後悔している。
その訳は。
「うっ、きつい……」
「これが緩いといけないから、少し我慢しててね」
帯枕という和装小物を着けなければならないからだ。
女将さんの説明によれば、帯枕は帯の形を補助する役割があるらしい。
ただ、まずはみぞおちの辺りで結ぶもののようで。
「ううっ……」
「結べれば少し位置を下げれるから、我慢だよ!」
「は、 はいぃ〜」
情けない声を出した私に、女将さんはクスクスと肩を揺らし、結び終わると下に下げた。
すると、少し圧迫感がなくなって、私は安堵の息を吐き出す。
「着物を着るのって、こんなに大変なんですね」
てっきりきついのは帯だけなのかと思っていた私に、女将さんは「オシャレは我慢が必要なことが多いかもね」と笑った。
そうして、赤地に桜の花や水玉が散りばめられた振袖に、濃く鮮やかな翡翠色の帯を巻きつけていく女将さん。