食欲は湧かないけど、お蕎麦なら食べれるかもしれない。
食べれないのにたくさん出してもらうのは悪いから、私は女将さんに「少なめでお願いできますか?」と尋ねた。
ヒロに心配されたくらいだ。
もちろん女将さんにも何かあったのかと心配されたけど、色々あり過ぎて苦笑を返すことしかできなくて。
「さっき、お風呂の掃除してお湯も張り替えたばかりだから、サッパリしておいで」
それでも、深く追求せずに笑顔で私の気を楽にしようとしてくれる女将さんの優しさが嬉しくて、胸が詰まる。
私は感謝の気持ちを込めて頷いて、一度部屋に戻ってから着替えを持って浴室へと向かった。
清々しいひのきの香りに包まれて。
芯まで冷えた体を温めて。
けれど、いつまで経っても心は吹雪の中を彷徨っているみたいに、寒くて、前が見えなくて、どこへ向かったらいいのかわからない。
動こうと、そう決めたのは自分だ。
それなのに、結果が重すぎて立ち止まってしまった。