私の祖母が亡くなる少し前、体調を崩していた時に言っていた言葉がある。


『死ぬ前に、一度だけでいいから』


ずっと会えなくなっている友人に会いたいと。

色々あって連絡先もわからなくなってしまったのが悔しいと。

それなら、もしかしてナギもそんな風に思ってくれたのでは。

どうしているのか、気にかけてくれて。

だから、夢に出てきたのかもしれない。


「凛にしか聞こえないたまゆら、か」


ティーカップの中の蜂蜜色の紅茶に視線を落とす私の耳に、ヒロの呟きが届く。


「例えば、俺も凛と一緒にその場にいれば、ナギが視えたりするのか?」

「どうかしら。ただ、魂が肉体から離れるのはいけないでしょうから、渚君とは会わない方がいいと思うわ」


昨日言われた言葉の意味を知り、私は神妙に頷いた。

ナギは、自分の状態に気づいてるのかな……。

様子がおかしかったのを思い出し、このまま会わないで回復を待つだけでいいのかと悩む。

私に、できることがあるのでは。

けれど、今はまだ知ったばかりの事実と情報を受け止めるので精一杯で。


「とにかく、今後の渚君のことを考えて、しっかりね」

「はい……」


嗜める言葉に、私は何のアイデアも浮かばず、言葉も見つからず、ナギが最後に見せた泣きそうな表情だけを、思い出していた。