「寒いから暖房つけておいたけど、暑かったらこのリモコンで好きに調節してちょうだい」


女将さんはニコニコしながらスーツケースを畳の上に倒して、その後も宿内の説明をしてくれた。

私がコクコクと頷くと、何かあれば受付の呼び鈴を鳴らしてねと言われて。


「それじゃあ、また夕食の時に声をかけるわね」


ごゆっくり、と女将さんは笑顔を残し階下へと戻っていった。

ひとりになって私はフゥッと息を吐き出す。

女将さんにとって私は友人の娘。

懐かしく思って接してくれているんだろう。

でも、私にはほぼ初対面みたいな感覚しかなく、例に漏れることなく人見知りを発揮してしまった。

できるだけ笑顔を心がけたけど、ほとんど頷いてばかりだったし愛想がないとか思われたかな……。

私はいつもこうだ。

コミュニケーションが苦手なせいで、相手がどう思ったか、気を悪くしていないかと心配になってしまう。

そうやって考え過ぎて、次に話す時もまた相手の顔色を伺いながら、ただひたすらに空気を壊さないようにと話に合わせて相槌をうって。

楽しそうに和気藹々と話している友人たちを見る度に、そんな自分を変えたいと願ってはいるけれど、願うだけ。