静かに横たわるその顔は憔悴していて、頭には白いネットの包帯が被せられている。
「頭を、怪我したの?」
絞り出すように声にすると、壁に立てかけてあったパイプ椅子を開脚させたヒロは頷いて、ベッドの横に置いた。
「軽度だが、脳挫傷で意識が回復しないまま、もうひと月以上この状態だ。最初は集中治療室にいたけど、呼吸が安定してこの重症個室に移された」
「そう、なんだね……」
目の前の現実に、胸の奥がずっしりと鉛のように重くなって。
ヒロに、椅子に座れと言われ、私は息を吐き出しながら腰を下ろした。
「水、入れ替えてくる」
そう言って、ヒロは少し萎れた花が生けられた花瓶を手に病室を出て行く。
二人きりになり、私はまだ信じられない気持ちでナギを見つめた。
横たわり目を閉じるナギの顔は、弱っているのに端正で綺麗で。
御霊還りの社で寝転がっていた顔を思い出させる。
バイクに乗る時、ヒロは零していた。
私がナギに会っていたなんて、信じられないと。
あり得ない、と。
それは、私も同じ気持ちだ。
あれだけ会って、話して、時間を過ごしたのに。
ナギは、こうして意識を無くしここにいたなんて。
信じられない。
「ナギ……何がどうなってるの?」
整理するつもりで来たのに、ここに至っても心の中はぐちゃぐちゃで、落ち着いて状況を整理するなんてできそうもなくて。
ヒロが戻ってきても、ただひたすら、泣きそうになるのを堪えながら、潤んだ瞳で眠るナギを見つめていた。