「毎日欠かさず偉いわね」


少し低いけれど丸みのある声で労われ、ヒロは「いえ……」と小さく頭を振る。

女性の名札には【看護士長 福永(ふくなが)】と印字されていて、視線がぶつかり私はお辞儀をした。


「こんにちは。お嬢さんは身内の方?」

「い、いえ、あの、私は」


ナギの幼馴染。

そう続けようとした私の声に、ヒロの涼しげな声が重なる。


「違います。でも、あいつにとって一番大事な人です」


大事な人。

きっぱりと言い切ったヒロの言葉に、私の心臓が跳ねる。

看護士長さんは顔を綻ばせて「まあ、それならきっと喜んで目を覚ますかもしれないわね」と、期待に満ちた瞳で私を見た。


「だと、いいです」


ヒロが答えて、看護士長さんにもう一度会釈してから病室へ向かう。

私は、人気のない静かな待合室を横目にヒロの背中に声をかけた。


「大事って……」

「間違ったことは言ってない」


またもはっきりと告げられて、これから厳しい現実と向き合わなければならないのに、私の胸は場違いにも少し喜んでいる。

私が、ナギの大事な人。

ヒロはどんな意味で言ったのか。

気にはなるけれど、さすがに今は聞く気にはなれない。