「あらー! 凛ちゃん? すっかり大きくなったねぇ」
広々とした玄関で迎えてくれたのは、母の友人でありこの民宿の女将さんである御央 妙子(みなか たえこ)さんだ。
膨よかな体にベージュの作務衣を纏い、『みなか』と書かれた濃いオレンジ色のエプロンを腰に巻いた女将さん。
「あ、あの、今日から二週間お世話になります。よろしくお願いします」
緊張気味に頭を下げた私を見て、女将さんはアハハと笑った。
「そんなかしこまんなくていいよ。さあ、上がって。部屋に案内するから」
「は、はい」
靴を脱いで玄関ホールに上がると、女将さんは私の持って来たスーツケースをひょいと持ち上げて「こっちよ」と木造の階段を昇る。
「凛ちゃんの部屋は一番陽当たりのいい部屋にしたからね」
そう言いながら案内してくれたのは、廊下の突き当たり。
【ききょう】という小さなプレートがドアについている。
どうやら各部屋に花の名前がつけられているらしい。
女将さんは木目調の扉を開けて私を室内へと通してくれる。
そこは十畳ほどの広々とした和室で、女将さんが言っていた通り、陽がよく当たる明るい部屋だった。
掃除がしっかりと行き届いている清潔な室内は、どこか懐かしい田舎の実家といった趣きがあってホッとする。