「あのね」


ヒロにナギの話をするのはあまり良くないのは承知の上で口にする。


「実は、ナギの様子が少し変だったから、何か知ってるかなと思って。あ、喧嘩してるのはわかってるけど、本当に、その……おかしかったから」


逃げるように去って行ってしまったのを思い浮かべながら、少し遠慮がちに告げると。


「ナギが、なんだって?」


ヒロは眉間にシワを寄せて、態度を険しくした。

やっぱりナギのことを口にするのはやばかったかもと一瞬怯んでしまったけど、ここで負けてはいけないと思い、頑張って話を続ける。


「昨日、帰りにナギと偶然会って、頭痛がったり、変なこと言ってたから」


だから、気になってと言葉を紡ぎ終える前に、ヒロの声が割って入ってきた。


「お前……何言ってる」

「え?」

「ナギに偶然会うってなんだ」


どことなく怒ってるようにも聞こえる口調には戸惑いも滲んでいて。


「ヒ、ヒロ、あの……?」


偶然ナギに会うことは、そんなに責められることなのかな?

ヒロとナギは一体どんな喧嘩をしたのかと、心配な面持ちで彼に声をかけると。

ヒロは、ふいと私から視線を外して。


「……昨日の夜、あいつは偶然会えるような場所にいない」


不思議なことを口にした。