夕陽に染まる住宅地を走って、一つ目の角を曲がるとすぐに比良坂神社の鳥居が見えて。
そして──。
「ナギ!」
私は、ぼんやりと鳥居の下に立つナギを見つけた。
伏せ目がちだった睫毛がゆっくりと持ち上がり、茶色い瞳がけだるそうに私の姿を捉える。
「……凛」
笑みもなく、どことなく虚ろな目をして私の名前を呼ぶナギに戸惑って。
「ナギ……えっと……元気?」
どう見ても元気そうではないのだけど、それしか言葉が浮かばずに問いかければ、ようやくナギの頬が緩まった。
「ははっ、息を切らして現れたかと思えばそれか」
「ご、ごめん」
少し乱れた呼吸を整えるように息を吐き出して謝ると、ナギは自分の右手のひらを見つめ、握ってから開いて、また握る。
「元気、だと思う」
ポツリ、零すように言って握った拳に力を緩めた。
「……思う、なの?」
「……そうだな。元気な気もするし、そうじゃない気もするし」
歯切れの悪い言葉を紡いたナギは、最後にヘラッと曖昧な笑みを浮かべる。