幼き日々に想いを馳せ、二人に会えたら何を話せばいいだろうと悩んでいるうちにバスはやってきた。
この路線バスは島のメインとなる観光地とは少し離れた場所に向かう為、乗り込んでくるお客さんもスーツケースを引く旅行者より島の住民といった装いの人が多い。
海岸沿いをしばらく走り、いくつかの集落を通ってから目的地で下車。
今日から二週間お世話になる民宿は、バス停から歩いてすぐの場所にあった。
朱色の瓦屋根の下に飾られた白い看板に【民宿 みなか屋】と書かれているけれど、どちらかといえば民宿というよりも大きめな作りの一軒家といったイメージだ。
母からここの女将さんと私は面識があるとは聞いているけど、いかんせん昔過ぎて覚えていない。
とにかく挨拶はしっかりしないとと、やや緊張しながらスーツケースを転がした直後。
──リリンと、鈴の音が微かに聞こえて。
私は目を丸くして辺りを見渡す。
でも、特に音の出所となるめぼしきものは見当たらない。
飼い猫の首輪か何かだろうか……。
「でも今の……」
夢の中で聞いたあの音に似ていた気がした。