青信号になったのを確認したヒロのお姉さんは、アクセルをゆっくりと踏み込む。

ウィンドウの向こうの景色が流れる中、流行りのバラードソングが聴こえてきて、その曲にお姉さんの声が重なる。


「こんな、という言い方するのは、自己肯定感が低い人に多いのよ」


自己肯定感……。

確か、自分の価値や存在を肯定する感情のことだ。

それが低いと自分を大切に思えなかったり、幸せだと感じにくくなるような話を以前テレビで聞いた。

その時確かに『ああ、私も当てはまるかも』と思ったけれど、日本人は他国と比較すると圧倒的に自己肯定感が低い人が多いというデータがあるらしく、みんなも一緒なんだと安堵したのを覚えている。


「凛ちゃん、私はね、人はどこか欠けているものだと思うの。そして、それでいいと思う」


だから、焦ってもいい。

失敗だってしたっていいの。

大丈夫よ。

あなたが一生懸命考えて起こした行動は、必ずあなたの糧になるから。

穏やかな口調で肯定してもらえて、寄り添うような笑みを向けられて、鼻の奥がツンと痛む。

本当にどうして、この島にいる人たちは、こんなにも温かい言葉をくれるのだろう。


「あり、がと……っ……ございます」


一瞬、涙声になってしまって両手でそっと震える唇を覆うと、ヒロのお姉さんは労わるような声で「久しぶりに会ったのに、偉そうにごめんね」なんて言うから、私は思い切り頭を振ってまた感謝の言葉を伝えたのだった。