「ごめんね。なんだか一生懸命で可愛くて」

「す、すみません。車なんてなかなか乗る機会がなくて」


だから、シートベルトの付け方を一瞬迷ってしまったと話すと、ヒロのお姉さんはエンジンをかけてから控えめな朱色の口紅を乗せた唇を動かす。


「不安なら遠慮なく聞いてね。聞かれても迷惑じゃないから」

「は、はい」


頷きつつも、お姉さんはやっぱりヒロのお姉さんなんだなと思った。

ヒロも少し前に、似たようなことを言ってくれてた。


『気にせずに話せ。俺はお前を嫌いになったりしない』


こんなところまで似るものなのかな。

ひとりっ子の私にはわからない、少し羨ましい繋がりを不思議に思っているうちに車は車道を走り出した。

ヒロのお姉さんが説明してくれた引っ越し先は、以前たつ君が迷子になっていた比良坂神社のすぐ近くらしい。

……もしかして、この前みたいに偶然ナギに出会えたりしないだろうかと密かに期待していたら、ラジオをつけたお姉さんが「大斗がね」と声にしたので、私はその鼻筋の通った横顔を見つめる。


「凛ちゃんのことをとても気にしてたのよ」

「引っ越し後、ですか?」

「ええ。手紙が送れなくなったって渚君から聞かされた時、ふたりがね、探しに行くってきかなくて。あの時は大変だったわ」