「えっ、そうなんですか?」
「そうなの。来年の春に結婚式をするんだけど、今引っ越し中で」
「今、ですか?」
「彼がね、年明けに本土から引っ越してくるから、私の荷物だけ少しずつ新居に運んでるのよ」
説明を聞いて納得する。
現在は婚約中で、来年の挙式の為に新居も用意できたけど、年明けにフィアンセが引越しをしてくる前に、自分の分だけでも運んでおくということらしい。
「そうだったんですね。おめでとうございます」
「ふふっ、ありがとう。今日も店番終わったら荷物運びするの」
嬉しそうに口にした言葉だけど、ふと疑問に思う。
「一人で、ですか?」
引越し屋さんを使ってなさそうだし、少しずつと話していたのでもしかしてと尋ねてみれば、やはりお姉さんは頷いた。
「今日は一人ね。昨日はタイミング良く大斗に手伝ってもらったけど、今日は……」
「ヒロは予定があるんですか?」
「……ええ、そうね。あの子にとって大切な、ね」
どこか、含みのある言い方が気になったけど、深く聞いてはいけない気がして。
だから、そちらに勇気を使わず、私は、女将さんにできたように、私のできる範囲の勇気を出した。