「はい、それをひとつお願いします」
「ありがとうございます。こちら千九百九十八円です」
「じゃあ、これで」
「二千円のお預かりですね。少し待っててね」
上品な香りを仄かに残し、ヒロのお姉さんはレジへと向かった。
私もその後に続いてレジの前に立つと、お姉さんはレジを操作しながら唇を動かす。
「大斗から少し聞いたけど、冬休みの間だけ島にいるの?」
「あ、はい」
「みなか屋さんよね? 宿泊先」
レジのドロアーが開くのを見ながら「そうです」と返事すると、ヒロのお姉さんは一円玉を二枚、慣れた手つきで取り出した。
「あそこの女将さん、とても素敵よね。居心地いいからって、リピーターさんも多いのよ」
「それ、すごく良くわかります」
女将さんの明るく朗らかな性格と、温かい笑顔は人を安心させる魅力がある。
それを素敵だと感じるのは、私だけではなかったようだ。
ヒロのお姉さんはお釣りを私に手渡すと、「実はね」と声にして。
「私の夫になる人も本土からの旅行者で、みなか屋さんのリピーターだったの」
とっておきの秘密を明かすようにプライベートなことを教えてくれた。