「ナギ?」
心配になり声をかけると、ナギはハッと顔を上げて、躊躇いがちに微笑む。
「あ、ああ、ごめん。ちょっと、今日は帰るな」
言いながら立ち上がる彼に、私は頷くことでしか反応ができない。
そんな私を見下ろして、ナギは唇を動かす。
「とりあえずさ、お母さんのこと、家族なんだし……いや、家族だからこそ、もっとしっかりぶつかってもいいと俺は思う」
それは決して押し付けるようなものではない、穏やかさを纏った声。
「俺もじいちゃんにはよく叱られたし、何日も口きかなかった時もあったな。けど、それで学んだっていうか……とにかく、ぶつからないとわかんないこともあるんじゃないか?」
家族だからこそ、ぶつかっていいのではというナギのアドバイスに、私は少し考え込む。
今回のように、ぶつかることで互いが互いの言葉で傷ついて、傷つけてしまったら。
例え謝っても、一度傷ついたら簡単には癒せない。
母が私に投げた言葉も、謝られて許したとしても、すぐに忘れるわけではない。
きっと、嫌な気持ちは残ったままだ。
そして、今回は母も同じ気持ちになるはず。
そうなってしまったら、次のぶつかり方が悪いとこじれて関係は悪化するだけ。
それでも、ぶつかる価値はあるのだろうか。