優しさと自信をくれる彼に、私も思わず笑みを零したその直後。

ナギの指が、彼の目の下を指差して。


「凛、寝不足?」


くまがあることを指摘された。


「う、うん。昨日、考えごとしてて」


恥ずかしくて、両手でくまを隠しながら話すと、ナギは僅かに首を傾げる。


「それは、俺も力になれそうなこと?」


額からこめかみに向かって柔らかく流れるナギの前髪が風に揺れて、私は「聞いてもらえる?」と確認した。

するとナギはもちろんだと首を縦に振ってくれて、私はおずおずと口を開く。


「……実は、ここ数年、お母さんとうまくいってなくて」


白い息と一緒に吐き出された私の悩みは、舞い上がることなく心に重く落ちる。


「凛のお母さん、か。あんまり記憶にないな」

「私、お父さんっ子だったからね」


うちは共働きで、比較的融通がきく工場での仕事をしていた父が保育園のお迎えも率先してやってくれていた。

それに加えて、何をするにもどこに行くにも父と一緒が良かった覚えがあるから、偶然外で会っても父がいたはず。

だから尚更、ナギもヒロもたまにしか会わない母のことは記憶残ってないのだろう。