桜の香りを感じながら、視線を動かしてナギの姿を探す。

だけど、どこにも見当たらずに、私は仕方なく一昨日のナギの真似をして草の上に寝込んだ。

息を吸い込んで鈍色の空を見つめていると、母の言葉が頭の中でリフレインされる。


『勝手なことばかり言わないで。どうしたの? 島に行っておかしくなったの?』


勝手なこと。

母からすれば確かに私は勝手だ。

幼馴染に会いたいからと言って島へ向かい、冬休みが終わる頃に帰ると言っていた娘が『転校したい』と言いだせば、驚くのは当たり前で。

何を急にと思って出た言葉なのも理解できる。

だけどやっぱり……『おかしくなったの』なんて。


「……ひどいよね」

「なにがひどいって?」


溢れた独り言に明るい声が返ってきて、心臓が大きく跳ね上がった。

目を見張る私を、腰を折って覗き込んできたのは会いたいと願っていたナギで。

彼の登場に、私の心は頭上の曇り空も晴れ渡りそうなほどに喜んで踊る。