そんなある日のこと、命を落とした一柱の姫神が、黄泉路で自らの死を嘆き怒り狂い、入り口まで引き返してきたのです。
そればかりか、穢れを持って巫女の身体に乗り移ってしまいました。
巫女の意識は遠くに追いやられ、穢れを纏った身体が一歩歩くごとに辺りの草花は腐っていきます。
アメノヨモツトジノカミは黄泉の国を統べる大神(オオカミ)に力を借り、姫神を巫女の体から引きずり出しましたが、巫女は穢れをその身に宿した為に命は風前の灯火でした。
アメノヨモツトジノカミは巫女を抱き起こし、どうにか魂を引き止めようと言葉を紡ぎます。
「翡翠よ。どうか逝かないでくれ。私の側にいてくれ。私はそなたと夫婦になりたい。翡翠、逝ってはならぬ。どうか、どうか……どうか」
しかし、巫女はぐったりとしたまま身動ぎすらしません。
このまま巫女の魂が黄泉路を渡れば、いくらアメノヨモツトジノカミといえども追うことはできません。
泣き濡れながら、アメノヨモツトジノカミは決心します。
自らの命を巫女の命と結ぼうと。