悲しくて、悲しくて、どうしようもない時は、水の中で生きられたらと、そう思うことがある。

透き通る水底にたゆたえば、見上げた水面には光が反射して綺麗で。

音は遠く静かな水中では、どれだけ泣き叫んでも声はくぐもり、涙を流しても水に溶けて消えていく。

そんな想像から私は、どうしても我慢できずに泣きそうになると、お風呂に入るようにしていた。

堪えて、お湯を張って、肩まで浸かって。

泣いて涙を流したら、呼吸を止めて温かいお湯の中に沈む。

そうして顔を上げた時、私の頬には涙のあとはなく少しだけ心も落ち着きを取り戻すのだ。

でも、ここは自宅じゃない。

だからどうにか堪えたかったけれど、今回は我慢できかなかった。

自宅であれば大抵ひとりだから何も気にすることはないけど、ここはみなか屋。

泣いたまま部屋を出て、誰かに見られては困るし、心配もかけたくなくて。

だから、涙を拭いて、人の気配がしないのを確かめてから私はお風呂へと向かった。

ヒノキの香りに包まれ、泣き腫らした顔を洗う。

洗い場の鏡に映る私の瞼は少し腫れぼったいけれど、これなら誤魔化せる範囲だろう。