「もしもし」
『なぁに、相談って』
挨拶もなにもなく、突然用件を促されて。
それでなくても戸惑っているのに、やばいくらいに心臓が脈打ち始める。
「あの、仕事は?」
『今移動中なの。今夜は忙しいから、今話してくれる?』
言われてみれば、確かに背後の音が騒がしい。
母は歩いているのだろうか、子気味良いヒールの音がテンポ良く聞こえてくる。
「う、うん。あのね、さっき女将さんと話してて」
『御央さん?』
「そう。それで、その、今後、島で暮らすのはどうかって」
『卒業後の話?』
どこか面倒そうな声で確かめられて、耳の内で鼓動が鳴るのを聴きながら、私は緊張で乾いた口を開く。
「もしうちが良ければ、転校して、みなか屋さんを手伝いながら居候させてくれるって言ってくれてるんだけど……」
そこまで話したところで、電話の向こうで深い溜め息が聞こえた。
「仕事で忙しいのに何の相談かと思えば。勝手なことばかり言わないで。どうしたの? 島に行っておかしくなったの?」
……おかしくなった?
誰が?
いつ?