「ただいまー」
「た、ただいまです」
私がお辞儀をする横で八雲君は靴を脱ぐと、リュックを下ろして廊下の奥へと足早に向かう。
「あっ、八雲! ここはお客さんが使う玄関なんだから置きっ放しはダメだって言ってるだろ!」
注意しつつも、リュックを持って女将さんは続いて八雲君が脱ぎちらかした靴を拾い上げる。
「まったくもう、あの子はだらしなくて」
「そんな。お出かけ中はしっかりしてましたよ」
図書館では静かにしていたし、食事中だって騒いだりワガママ言ったりはしていない。
何より、事故現場でちゃんと女将さんの言葉を思い出して確認してから渡っていた。
それを伝えると、女将さんは驚きながらも頬を緩めて。
「成長してて安心したよ」
嬉しそうに笑った。
「ああ、凛ちゃん。おやつの時間だから、良かったら私らと一緒に食べない?」
「えっ、いえ、家族団欒の時間にお邪魔したら悪いですし」
「悪くないよ! 息子が世話になってるんだ。お礼させて」
温かく人懐こい笑みを浮かべて、ほらおいでなんて言われて。
結局私は断りきれず、案内されて普段御央家が住む母屋にお邪魔させてもらうこととなった。