「ごめんなさい……」
 ……心が、擦り切れてしまいそう。近づきたいと思った人が、不幸に陥れてしまった人だなんて、こんな悲しいことがあるだろうか。
 ありがとうと伝えたばかりの人に、私は今、数年越しの謝罪をしている。
 吉木は、私から目を逸らさずに、真っ直ぐに見据えている。その黒い瞳の中に、私は今までどんな風に存在していたんだろうか。
 
 想像するまでもない。憎くてたまらないに決まっている。

「高校が一緒になったのは、偶然なんかじゃない。俺が、お前の情報を聞き出して、追いかけてきたんだ」
「ごめんなさい、私は、あの時……」
「確かめたいことが、あったんだ。俺は……」
 そこまで言いかけて、吉木は私の顔を見て言葉を失った。私は、トラウマのど真ん中に触れられてしまったような、吉木を恐れるような、そんな顔をしてしまったんだと思う。

 バカな話だ。吉木にとって私は、トラウマどころの存在じゃないのに、どうして私が吉木を怖く感じているんだ。
でも、あの日最後に涙を流した自分が、今の私を容赦なく責めるから。

「ごめんなさい……」
 もう一度、震えた声で謝ると、吉木は更に絶望したように目の色を暗くした。
彼は、私の肩にもう一度触れようとしたけれど、直前で手を止めて、長い睫毛を再び伏せる。それから、自分に言い聞かせるように、ぽつりと一言呟いた。

「そうだな……俺とお前は、そうあるべきだ」

 吉木と言葉を交わしたのは、その日が最後だった。
俺のことを思い出したら消えてやるよ、という言葉通り、吉木は転校先も告げずに去って行った。
 今にも泣き出しそうな、吉木の苦しそうな顔を、私はこの先何年も忘れられないことになる。