手首を掴まれた途端、嫌でも彼が直近で泣いた映像が流れてきてしまった。流れてきた映像は、悟さんが気の強そうな彼女にフラれて泣いている映像だった。一瞬だったので聞き取れなかったけど、去り際にその彼女に吐かれた言葉で身を震わせている彼がいた。
「付き合うなら、君みたいに優しくて真っさらで純粋な子がいい……」
「悟さん、手首痛いです」
女性関係で何かトラウマがあるのだろうか。分からない。手首から伝わる彼の熱が気持ち悪い。怖い。助けて。
「こ、怖いです、離してください」
ちゃんと声にしたはずなのに、声になっていなかった。口を金魚のようにパクパクさせるだけで、悟さんには届いていない。こういう時って、本当に声が出ないんだ。
「ねぇ、俺が怖い?」
その問いかけにこくこくと頷いた瞬間、光がパッと私たちを包み込んだ。
咄嗟に私から離れた悟さんは、その光源を見つめる。そこには、相変わらず目つきの悪い吉木が立っていた。
どうしてだ。彼を見た瞬間、心の底から安堵してしまっているのは、なぜだ。
「俺も、ついてっていいですか、コンビニ」
何を言うのかと思えば、そんなことをやたら強気な口調で言ってのけた。悟さんは、少しも表情を崩さずに、いいよと答えた。さっきまで私に迫っていたことなんか、最初からなかったことにするように、悟さんは笑った。
その笑顔をゾッとしたように見つめていると、吉木が私と悟さんの間に割って入ってきた。私とふと目が合うと、彼は口パクで「バーカ」と言ってきた。
バカと罵られたはずなのに、私はどうしようもなく、泣きたい気持ちに駆られたのだ。
どうして、嫌いな人間でも助けてくれるの。
ねぇ、私のことが嫌いなんでしょう、君は。
こんな風に助けられてしまったとき、どうすればいいのか分からない。分からないけど、今は目の前にあるこの状況をどうにかしなきゃいけない。吉木が来て、急に恐怖心が消えた私は、吉木の背中越しから、悟さんを睨みつけた。悟さんは何も言わずに私から離れて、コンビニへ向かって歩いていった。
吉木の背中を黙って見つめていると、急に彼が振り返って、私の顔をじっと覗き込んできた。