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なにか私が覚えていないところで、彼を傷つけてしまったことがあるのだろうか。必死に思い出してみるが、ここは地元から一時間も離れた高校だし、彼と地元で会っているはずもない。出会ってまだ半年で、ここまで嫌われたことがあっただろうか。赤くなった頬をグラウンドの水道で冷やしながら、ぐるぐると昔のことを思い出そうとすると、痛みが走った。
……いつもそうだ。小学生の頃の記憶を思い出そうとすると、アイスを食べた時に頭が痛くなるように、キンとした鈍痛が走る。まるで一種の防衛反応のように、脳が思い出すことを拒否するのだ。
「なんなのあいつ……」
なぜ今頭に浮かぶのが、憎い先輩たちでなく吉木なのか。砂にまみれた固い蛇口を捻って水を止め、濡れた頬をタオルで拭いた。今日は久々の快晴で、空が一層高く感じる。先輩たちが来るまでに筋トレ用の用具を準備しておかなければ。
ぎゅっと目を閉じて痛みを我慢すれば、いつかは通り過ぎる。そう思って今まで辛いことを乗り越えてきた。春になればあの人たちも引退する。それまでの辛抱だ。こういう時私は、いつもただただ水の上に浮かぶことで気持ちを落ち着けてきた。
「泳ぎたいな……」
この学校には温水プールの設備がないから、近くにある市民プールに行くしかない。秋冬は顧問が付き添える時だけ、月に数回連れて行ってもらえるが、先輩優先なので正直まったく泳いだ気がしない。
泳ぐことが好きで水泳部に入ったのに、泳げないって笑えるな。
「おい園田(ソノダ)、なに準備もせず突っ立ってんだよ」