「冗談だから、忘れて。……詩春のさ、そういう優しいところ、可愛くて仕方なくて好きだった」

 私は、ちっとも優しくなんかない。人の気持ちの中に勝手にズカズカ入って、今友達のことを傷つけた。無神経で、浅はかで、どうしようもない人間だ。
 ふと、一カ月前に倉庫で吉木に言われた言葉が蘇る。「あんたが嫌いなだけだから、勘違いすんなよ」という言葉が、鉛のように胸の中に溜まっていく。もしかしたら吉木は、こんな卑しい私のことを見抜いて言ったのかもしれない。

「沙子、ごめん……」
 無理やり聞き出して、ごめん。
「私も、友達として沙子のこと、大好きだから」
 そう言うと、沙子は私の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
 沙子と会ったのは、その日が最後だった。
 新学期になると、彼女の机は空っぽになっていた。