片手で喉を押さえ、悶え苦しむタオシュンが傍若無人に暴れる。輩の持つ大刀が木を倒し、熊男は燃える木々の下敷きとなった。
 なおも眼球が飛び出しそうなほど目を開き、忌々しそうに二人を睨む。

 そして最後の力を振り絞ったのか、叫びたい気持ちが輩に力を与えたのか、タオシュンは血反吐をはき、咆哮した。


「ぶざまっ、あまりにぶざま。だれっ、も、貴様のっ、生など望んでおっ、おらんことを、忘れるなっ、ピンインっ――!」


 それは呪詛のようであった。
 短弓を肩に掛け、ティエンは炎に包まれる男に小さく笑うと、背を向けて歩きだす。まだ息のある男は燃え盛る炎に苦痛を浮かべ、木々の下から這い出ようとしていた。

「知っているさ、そんなこと。それでも、私は生きる。タオシュン、貴様の死を超えて」

 ユンジェは懐剣を鞘に収め、焼け爛れていく人間に目を細める。
 正義と称して町や森を焼いた男の末路に、因果応報の四文字が脳裏を過ぎった。ティエンは呪いと言ったが、これは呪いなんかではない。己の行いを返されただけの、報いだ。

 呪われた王子の隣に並ぶと、そっと彼の手を握った。
 そうしなければ、彼がひとりになってしまいそうだと思った。手の震えには気付かない振りをする。



「ユンジェ。私は生きる。たとえ、千も万もの人間が私の死を望もうと、無様と言われようと――たった一人の家族のお前と共に生き続ける」



 炎に包まれる森が道を作る。何もかも焼きつくすそれは、ティエンを敬うように、身を引いていく。ひれ伏していく。

「お前が呪いの王子なら、俺は呪いの懐剣だな。いいよ、それでも。この先、どんなことがあっても、俺はお前に最後までついていく。約束だ」

 握り返してくる手の力は、普段の華奢な彼からは想像できないほど、強いものであった。