白梨を剥き終わると、ユンジェは蒸籠(せいろ)から豆団子を取り、箸で二つに割る。

「ティエン。ほら」

 半分を口に入れて、もう半分を蒸籠ごと彼に差し出した。きょとんとする彼に、「美味いぞ」と、笑顔を作り、一緒に食べようと誘う。

 すると彼は躊躇いなく、それを口に入れて、美味そうに咀嚼する。
 思った通り、彼の食欲は心意的なものだ。不安を取り除けば、しっかりと食べることができる。

 こんな華奢でも一年間、過酷な畑仕事をこなしてきた男だ。幾度もひもじい思いをしてきた彼は、ユンジェ同様、食べることに人三倍貪欲になっている。

 ユンジェが共に食べれば、無事彼の食欲を取り戻るだろう。ホッと息をついた束の間、ハオから罵声を浴びせられる。

「クソガキ。貴様が使った箸で王子に飯を渡すとは、どういう神経をしてやがる」

 頭を抱えたくなった。この男は一連の流れを見ていなかったのだろうか。

(せっかく、ティエンの機嫌が直りかけていたのに。あいつの頭は空っぽなのか?)

 美しい顔が無言でハオを睨む。美人の凄みは、なんとも迫力があるものだ。片膝を立てているハオが、見事に石化してしまった。言わんこっちゃない。

(ハオって男。たぶん、後先を考えない奴なんだろうな)

 抜けている、と言った方が正しいのかもしれない。他の兵士達はティエンの様子を窺い、多少のことは目を瞑っている。

 また、彼らの帯に剣が差さっていない。

 カグムの一件で、護身用の短剣は持っていると分かったが、見えるところに武器は持ち合わせていない。ティエンの警戒心を和らげるためなのだろう。

 しかし、この男の帯には双剣が差さっている。それが先ほどの騒動を招いた。

(良くも悪くも裏表がないってとこかな。カグムの方が難癖あるな)

 かつての近衛兵は、片膝をついて、ティエンの食事の様子を見守っている。
 目が合うと、含みある笑みを向けてきた。食えない笑みだ。ユンジェは肩を竦める。

「間諜の首領はどなたでしょうか?」

 二個目の白梨を平らげた頃、ティエンが話を切り出した。それは今後の方針を決めるための話題であった。

 待ち望んでいた展開だったのか、カグムが名乗り出る。
 此度、将軍タオシュンの兵にまぎれていた間諜の首領は己だと。一年もの間、ピンイン王子を探していた旨も告げてくる。

 ティエンにとって笑い話だろう。谷から落としておいて、探していた、など。

 奥歯を噛み締める音が聞こえた。