夜更け。
せっせと藁で縄をこしらえていると、寝台で横になっていた男の口から、低い呻き声が聞こえた。目覚めたのだろうか。手を止め、振り返る。起き上がる様子はない。
寝台に近付いてみると、男は額に汗を浮かべていた。魘されているようだった。右の手が持ち上がり、何かを探すように宙を掻く。
ユンジェは迷わず、その手を握った。驚くほど、男の手は柔らかい。
農作業も何も知らない、清らかな手だ。所々マメがあることに気付くが、農作業に明け暮れるユンジェの手に比べると、まったく比ではない。まるで女のような手だ。
「どこか、痛いのか?」
優しく声を掛けると、応えるように手を握り返された。
「天の使命を果たそうとしているなら、傷を癒してからでも大丈夫だと思うよ」
そっと腹を叩く。
「大丈夫だよ」
爺はいつも、ユンジェが怖がったり、怯えたり、不安になると、こうして腹を叩き、あやしてくれた。
そして、大丈夫と呪文を掛けた。親が恋しくなった時だって、これで乗り越えられた。
だから男にも効くと思った。
「大丈夫。ひとりじゃないよ」
どうして、それを口にしたのかは分からない。
だが、なんとなく男に慰めの言葉を掛けてやらねば、と思った。
魘されている男は、どこか怯えて、怖がって、さみしそうに見えたから。相手はユンジェよりも大きいのに、小さな子どものように見えた。