(待てよ。クソガキがいなくなったら……三人旅になるじゃねーかっ! ちょっと待て。誰がティエンさまとカグムの喧嘩を止めたり、凍てついた空気を緩和したりするんだよ!)
恐ろしい現実に気づいてしまったハオは、血相を変えて、二人の喧嘩に口を挟む。
「カグムっ。俺も一刻も早く、天降ノ泉へ向かうべきだと思う。さすがに今すぐは、俺達の体調的に無理だが、明日の朝一には出発できるだろ。そうしようぜ、ああ、そうしよう。そこに行けばガキの手掛かりが掴めるかもしれねーし」
「おい、ハオ?」
「ティエンさまも。お気持ちは分かりますが、朝までお待ちください。せめて熱が下がるまではっ! 今すぐカヅミ草を煮だしますんで、全員これを飲んでおとなしく寝る! いいですか!」
「……ハオ。貴様、何を目論んでいる?」
困惑するカグムと、怪訝な顔を作るティエンなんぞ知ったことではない。ハオは誰よりも、自分が可愛いのである。面倒事に巻き込まれたくない男なのである。できることなら、静かに穏やかに任務を遂行したい謀反兵なのである。
従って、常に雰囲気を和やかにしてくれる、ユンジェの存在は必要不可欠。因縁ある面倒な二人との、男三人旅なんぞ死んでも御免である。
「クソガキっ、なんで一人で行っちまいやがったんだ。俺の胃を痛めつけるつもりかよ」
「……カグム。ハオのあれは、なんという病だ? 熱からくるものか?」
「せめて俺も連れて行けよっ。ずりぃぞ、一人で行くなんてっ」
「初めて見る症状なんで、なんともかんとも……ハオ? 頭大丈夫か?」
「大丈夫なわけあるか。俺を一人にするとか、酷も酷だろうが。地獄だろうが。ライソウ、シュントウに続いて、クソガキまで俺を置いていくなんて。俺もお前と一緒が良かった! クソガキっ、いやユンジェっ、戻って来い!」
いい歳して泣きそうだ。嘆き喚くハオは長引く高熱のせいで、少々頭が回っていなかった。