その晩。穏やかな時間を過ごしたユンジェは、夢の中で麒麟と再会する。

 一面広がる水の上に立ち、巨体を持つ麒麟と、いつまでも向かい合った。美しい黄金色のたてがみ、鮮やかな鱗、三つの立派な角はいつ見ても呆気に取られる。

 澄んだ目に見つめられるユンジェは、麒麟の声なき声を聞いた。
 それは神託であった。使いとして、その御言葉を所有者に届けろと、次なる王へ届けろと言われているような気がした。

 一方的に伝えられるので、ユンジェは麒麟に聞くに聞けなかった。

 どうして、自分はティエン以外の懐剣を抜けるのだと。彼を守るために使命を与えたのではないのかと。麒麟はティエンを王にしたいのかと。



 たくさん聞きたいことがあるのに、声はまったく出なかった。






「ユンジェ? ……ユンジェ! 良かった、目を覚ましたのだな!」


 ゆるりと瞼を持ち上げると、ユンジェは血相を変えたティエンに縋られた。

 何事だろうか。ぼんやりとした意識で上体を起こす。
 ユンジェは宿屋の寝台に寝ていた。驚くことに、寝台の周りにはカグムやハオもいる。もう朝なのだろうか。寝坊したのだろうか。

「馬鹿野郎。もう夜だ。てめえ、丸一日寝ていたんだぞ」

 名前を呼んでも、揺すっても、頬を叩いても、まるで起きなかったのだとハオ。医者を呼ぶかどうか話し合うほど、深い眠りに就いていたそうだ。

「ユンジェ。気分はどうだ? 医者はいるか?」

 カグムが膝を折り、視線を合わせてきた。

 瞬きを繰り返すユンジェは、軽くこめかみをさすって首を横に振ると、所有者に賜った神託を告げる。

「ティエン、天降(あまり)ノ泉へ行こう。麒麟がそこで、お前の、セイウの、リャンテの……次なる王の訪れを待っている」