これに物申したのはティエンである。ふざけたことを言うなと食い下がり、何を考えているのだと声音を張った。

「隊に入るということは、兵士になるということ。そんなの私が許すわけないだろう! ユンジェの性格が悪くなる!」

 それは偏見である。ユンジェは兵士不信のティエンに苦笑いした。
 絶対に認めないと言い張るティエンに対し、カグムも真っ向から反論する。

「お前も見ただろう? ユンジェには指揮の素質があるんだよ。やせぎすな体躯は兵に向いていない。だが、しっかり学ばせれば、隊を動かし、将軍を討つだけの力がつく。こいつは軍師になれるかもしれないんだぞ」

 才能があると知って、そのままにしておくなど、馬鹿のすることだとカグム。
 農民でありながら、学びの経験もなく、あんなに策が立てられるのだから、しかと育てていくべきだと主張した。

 それに言葉を詰まらせるティエンだが、「謀反が楽になる」と、彼が余計な一言を放ったことで、喧嘩が勃発した。

「結局は謀反に繋がるわけか! だから嫌なんだ。ユンジェを貴様と関わらせると、ろくな目に遭わない。利用などさせるものか! たわけ!」

「寧ろ、こいつの才能を見つけた俺に感謝してほしいくらいだ。ピンイン、お前はユンジェの才能を腐らせるつもりか!」

「ユンジェの才能など、出逢った当初から知っていたわ! 見くびってくれるな!」

「はあ? うそつけ。だったら、もう少し上手く使っているだろ。箱庭育ちの王子さまよぉ!」

 ああ。どうして、こんなことに。
 ハオの隣に移動したユンジェは、乾燥豆を口に入れて咀嚼する。向こうでは激しい言い合いが繰り広げられていた。もう止める気にもならない。

「ライソウとシュントウ。戻って来ないかなぁ。俺、四人旅が不安になってきたよ」

 隣に乾燥豆を差し出すと、二個つまんだハオがこめかみを擦って唸った。

「あいつらが羨ましいぜ。俺も二人と行きたかった。つれぇ」

「なあハオ。隊に入るってどういうこと? 俺、力も何もないよ。懐剣だって、ティエンが関わっていなきゃお粗末な腕だし。カグムは俺に学ばせたいみたいだけど」

 ユンジェは乾燥豆をまた一つ口に入れて咀嚼する。

「おおかた、兵学や戦略、戦術を学ばせたいんだろう。てめえにはその才能があるんだ」

「よく考えれば、みんな思いつくよ。俺は学びも何も受けたことのない、ばかだし」

「馬鹿野郎。学びも何も受けたことがないから、すげぇんだよ。今のてめえには分からないと思うが、知識も得ていないのに、あそこまで役割を把握して、策を立てることは簡単なことじゃねえ。俺もその才能は腐らせない方がいいと思う」

 珍しくハオにべた褒めされた。いつも悪態ばかりつくのに。

(ちょっとだけ興味があるって言ったら、ティエン……怒るかな。本当に才能があるなら、学んでみたいんだけど)

 ユンジェは残った豆を全部口に押し込むと、突き上げ戸の方へ視線を流した。


 雨は一晩中、止むことなく降り続いていた。