「あ、そうだ」
脳天をさするユンジェは思い出したように手鏡を取り出すと、中心に懐剣の刃先を当て慎重に割った。四分割にしたところで、各々破片を渡す。
「各自持っといてよ。それをちらつかせれば光で合図が送れるし、夜襲を受けた時は、これで敵の松明を確認できると思う。鏡は便利だよ」
「合図? ユンジェ、合図とは?」
ティエンが首を傾げると、「これから先は連携が大切じゃん?」と、言って鏡の破片を手に持った。
「俺達はいつ何時襲われるかも分からない。その時、もしも四人が散らばったらどうする? とくに俺とティエンは弱い。真正面から襲われたら一巻の終わりだ」
鏡なら声を出さずに、居場所を知らせることができる。また、二手に分かれて行動する時も、これで合図を送りあえる。
ティエンが玄州に行くと言った以上、近衛兵のカグムやハオに警戒しても仕方がない。いがみ合うより、手を組んで青州を渡らなればならないだろう。
手鏡を割って渡したのは、そういった協力する意味もある。
「カグムとハオは腕が立つ。だからこそ、俺達はお荷物だ。何かを守りながら動くってのは、それだけ注意するべき点が増える」
ただでさえ敵数は多い。ユンジェとしては、彼らの負担になりたくない思いが強い。
「ティエン、覚えとけよ。俺とお前は、よく考えて動かないといけない場面が多くなる。それは、腕の立つ人間の足を引っ張らないための動きだ。主力に怪我を負わせるな。余計な気遣いはさせるな。無駄な動きは取らせるな。この三点は肝に銘じとけよ」
でなければ、生き残れない。
ユンジェは掻いた胡坐の上で、頬杖をつくと、たき火を睨んで思考を回す。
ティエンに偉そうなことは言ったが、おおよそ一番足手まといになりかねないのは自分だ。
主従関係にあるセイウが現れたら、ユンジェはまた下僕に成り下がるやもしれない。
考えろ。セイウにひれ伏す、その前にどうすればいいのか。
「んっ?」
ふと、ユンジェは突き刺さる視線を三つ感じた。顔を上げると、含みある眼が向けられている。
はて、何かおかしなことを言っただろうか。
「クソガキ。お前、本当に農民か?」
ハオが不思議な質問を投げかけてくる。身分など、今さらではないだろうか。
「突然なんだよ。俺は畑仕事ばっかりしていた、農民のガキだよ。あ、縄と筵作りも得意かな」
「正直に言え。本当の歳はいくつだよ」
「はあ? 十四だけど」
「こんな十四がいるか! しかも農民って!」
「ハオ、意味わかんねーんだけど」
すると。カグムが一つ頷いて、乾燥豆を取り出し、ユンジェの前に並べた。