布縄や火打ち石、リオ達から貰った糸も残っている。何か遭った時のために、常日頃から半分にしていた甲斐があった。

(半分にできるものは半分にするとして)

 ユンジェが気になったのは、彼が使用している矢の本数であった。
 まだ数はあるものの、鉄の(やじり)がついた矢が、これから先、簡単に手に入ると思えない。

 そこでユンジェは雨にも関わらず廃屋の外に出ると、細い竹を切り集めて、焚いた火でそれを焙り、乾かした上で所持している矢と長さを合わせる。
 先端は刃物で削り、鏃は火打ち石を砕いて代用した。後は布紐を解いて、更に細くし、巻きつければ。

「すごいなユンジェ。自分で矢を作っているのか?」

 焙った矢が直線になっているか、確認するため、竹を水平に持って覗き込んでいると、カグムが感心したように作業を覗き込んできた。

「鉄鏃の矢は無駄にできないからね。いざって時以外は、こっちで我慢してもらおうと思って。殺傷能力は低いだろうけど、ティエンの腕なら獣くらい射ることができるはずだ」

「なんで火打ち石を付けるんだよ。先端を尖らせておけばいいんじゃね?」

 ハオも覗き込んでくる。竹の先端を刃物で削ぎながら、ユンジェは答える。

「俺もそう思って、何度か試したんだけど、上手く飛ばないんだ。重りがないと、飛距離が伸びないみたい。ティエン、出来上がっているその矢、使ってみろ」

 竹の無駄な皮を削いでいたティエンは、言われた通り、短弓に竹矢を引っ掛けると、廃屋の出入り口に向かって放った。
 やや狙い目がずれるらしいが、使えないことはないようだ。

「うん。ユンジェ、なかなか良い出来だと思う。さすがだな」

「即席で作った奴だから、乾燥すらさせてないし、すぐに虫に食われて腐りそうだけど……しばらくそれで我慢してくれな。取りあえず、二十本は作っとく。これが終わったら、目つぶしを作るから、カグム達の要望を聞いておくかな」

「要望?」

 カグムが首を傾げてくるので、ユンジェは好みの目つぶしを作ってやると笑顔で答えた。

「俺は人に合わせて、目つぶしを作るんだ。たとえば、ティエンは矢を使うから、なるべく矢に付けやすいよう、絞り口を狭くする」

 ユンジェ自身は懐剣を使うので、目つぶしを直接投げる型にしている。もしも相手に詰められても、これを顔に投げれば、逃げられるという寸法だ。

「カグムやハオは、刃の長い武器を使うから素手で投げるより、紐で回しながら投げた方がいいかな。手で握っていたら邪魔になりそうだから、腰に下げる型にしようか?」

「あははっ。ユンジェ、お前って本当に不意打ちに徹底しているな。俺が敵だったら、絶対に斬りたくなるぜ。この悪ガキ」

 声を上げて笑うカグムに、褒め言葉だと意地の悪い笑みを向け、さっそく要望を尋ねた。無いよりはあった方がマシだろう。

「長めの紐を付けることは可能か?」

 カグムが人差し指を立てた。勿論できる。

「長め? どんくらい?」

「遠心力で人ひとり分の幅ができるくらい。それを振り回せば、複数の人間の目を潰せる気がしてな。ユンジェの作る目つぶしって、基本的に一回きりだろう? けど、目つぶしの中に入っている砂や唐辛子なんかは、一回じゃ出し切れないと思うんだ」

 数回は使えるのでは、とカグムが意見する。

「なるほど。数回使える目つぶし。それいいな。材料の節約にもなりそう。ちょっと作ってみるよ」

 軽く手を叩くユンジェは、良い案だと大変感心していた。そうだろう、そうだろう、得意げに頷くカグムの後ろで、ハオが遠い目を作る。

「数回使える目つぶし……それを思いつくカグム、てめえも大概で良い性格していると思う。はあ。こいつら、こえーよ」

「そういうハオは、単純馬鹿だよな」

 物の見事に拳骨を食らってしまう。調子に乗り過ぎたようだ。