毎日することが大切だと言われたので、ユンジェは食事を取る時や寝る前に、文字の読み書きや足し引きを練習する。
 じつは旅や野宿を理由に、毎日は学びの時間を取っていなかった。気が向いた時だけやっていたのである。

 今宵のユンジェはティエンに手伝ってもらい、足し引きの練習をする。

「さあユンジェ。ここに五個の豆がある。これを十にするには、何個豆が必要だろう」

 ティエンが手の平に乾燥豆をのせ、それを見せてくる。ユンジェはいっぱい考え、答えを導き出した。

「十だろ。十……三だ。ティエン、答えは三個」

 三本指を立てると、ティエンは困ったように笑い、見守っていたカグムが苦笑する。

「それじゃ、八個だぞ。ユンジェ」

「え、嘘。じゃあ、六個」

 今度はハオが阿呆か、と声を上げてきた。

「馬鹿野郎、十一個になるだろうが。もっとよく考えろ」

 考えた結果なのに。ユンジェは頬を脹らませ、もう一問を出してもらう。

「私は五個の豆の内、三個を食べた。残りはいくつになっただろう」

 それなら答えられそうだ。ユンジェは指を使い、二個だと答える。途端に後ろから頭を叩かれた。犯人はハオであった。

「指を使うなっつーの! それは反則だろうが!」

「いってーな。しょーがないじゃんか。目で見ないと、よく分かんないんだから」

 すると。ティエンがそれだと手を叩き、教え方が悪かったのだと言って、ユンジェの手に乾燥豆を落とす。

「ユンジェ。今度は私の言う数を、これで使って足し引きしてみなさい。時間が掛かってもいい。何度数えてもいい。頭じゃなくて、これで計算をするんだ。自分の手を使ってな」

 それでは指を折って数えるのと同じでは。半信半疑になりつつ、ユンジェは乾燥豆を使って足し引きを始めた。

「三個と四個を足すと、えーっと七個で、これを十個にするには……」

 毎晩、十個の豆を足したり引いたりしていく。
 数が一目で分かるので、とても分かりやすかった。それこそ指よりも分かりやすい。
 その内、豆がなくとも十個の数の間なら、計算ができるようになったので、すごく楽しくなった。指を使わなくても計算ができるので、嬉しくて仕方がない。

「なあなあハオ。問題を出してくれよ。問題」

「まーだやる気かクソガキ。ああもう、じゃあ、四個の豆と六個の豆を足したら?」

「十個! 次は!」

「……カグム、代わってくれ。もう二十問は出してるぜ、俺」

 ユンジェは有意義に学びの時間を過ごす。
 ティエンに教えてもらいながら、時に謀反兵達に問題を出してもらいながら、その時を過ごす。学びがこんなに楽しいとは思わなかった。

「ったく。いつから、この旅は学びの旅になったんだ。ガキはしつけぇしよ」

「いいじゃないかハオ。暗い旅よりかはずっと良い。ユンジェのはしゃぎようを見ていると、必死に働くだけの日々だったんだろうさ。本当に楽しいんだろう」

「……学びも遊びも知らず、ただただ働くだけ。同じ平民なのに農民ってだけで、ここまで違うんだな」

「これも麟ノ国のひとつの姿なんだ。甘い汁ばっかり吸う王族や貴族に見せてやりたいよ」

 学び疲れたユンジェに外衣を掛けるティエンは、たき火を挟んで向かい側にいる謀反兵の会話に目を細めると、なにも聞かなかった振りをして、子どもの隣に寝転んだ。


(学びも遊びも知らず……良い国とは程遠いな)


 あどけないユンジェの寝顔に頬を緩ませ、ティエンは子どもを引き寄せて瞼を下ろした。