「じいちゃんってさ、変な人だったよな」
 みんなで私の家に戻った途端、まるで独り言のように翔君が呟いた。日当たりのいい位置に置かれたソファーに座り、どこか憂いを帯びた表情をしている。お母さんと渉子さんは、忙しそうにお昼ご飯の支度をしていたけれど、きっとみんなどこかで「ああ」と、おじいちゃんのことを思い浮かべていたはずだ。だって、一瞬、みんな何もしゃべらなくなったから。
「日本人のくせになんでか目が青くて、もうそんなのどうでもいいよってことばっかりバカみたいに詳しくてさ」
 尚も翔君は独り言のように呟いた。真冬の白い光が差し込んでいるリビングに、なんとも言えぬ空気が漂っている。懐かしいとか、そういうんじゃなくて、こう、もっと、愛しいような時間。
 私もおじいちゃんのことをゆっくり思い出していた。お墓参りに行ったからかな。こんなに素直におじいちゃんのことを思えるのは。その雰囲気が、私の口からいきなりな質問をさせた。
「おばあちゃん。おじいちゃんってさぁ、若い頃どんな人だったの?」
 おばあちゃんは、一瞬考える仕草を見せてから、薄くしわを浮かべて穏やかに微笑んだ。微笑んだ、というか、微笑んでしまった、という感じだ。
「久(ひさ)枝(え)じぃかい……不思議な人だったよ。ほんとに」
 一言一言、大切そうに話すおばあちゃん。迂闊に相槌を打ってはならないような気がして、私は黙って聞いていた。……翔君や、お姉ちゃん、他の全員も、きっとそうだったろう。
「瞳がね、こう、澄んでて、綺麗で。初めて会ったときに思わず話しかけちゃったの。どこの国の人ですか? って。そしたらね、あの人ったら真面目な顔をして、英語をしゃべり出したのよぉ」
 ぱっとその光景が頭に浮かんできて、私は思わず笑ってしまった。
「私は、もちろん英語なんてさっぱり分からなくて、焦っちゃって。そしたら突然『あなた、もし本当に私が外国人だったらどうしたんです? こんな風になってましたよ』って意地悪く笑ったんだよ。あのときから少しひねくれてるわよね」
 そう言って豪快に笑うおばあちゃんの顔は、とても生き生きとしていた。私の知らない二人の思い出。それを今も大切に覚えているおばあちゃんは、なんて、一途な人。おじいちゃんがどれだけ愛されていたのかが分かった。
「ねぇねぇ、じゃあなんで結婚したの? なんでまた出会えたの?」
「そうそう。また、偶然にも会ったのよ。で、なんとかお付き合いを始めたんだけど、突然何も言わずに姿を消しちゃってね。でも、待ったの。ずうっと」
「何も言わずに去っちゃったのに?」
 私は思わず不満の混じった驚きの声を上げた。けれど、おばあちゃんは、にかっと笑って、「そう言うと思った」というような表情をした。
「なんでか、あの人じゃなきゃダメって、そう思ったんだよ」
「なんで?」