それがどういう意味なのかはいまいちよく分からなかったけれど、日向君の中学時代には興味があった。そのときにはもう透視能力があったのかな。あったとしたら、他に誰か気づいている人はいたのだろうか。考えを巡らせていたら、自分は日向君のことを何も知らないことに気づいた。知っているのは、名前と秘密だけで、好きな色とか、誕生日はいつとか、嫌いな食べ物とか、友達なら知っていて当然のことを私はひとつも知らなかった。
「あれ、カケル……と中野?」
 そのとき、後ろからのんびりした声が聞こえ、振り返るとそこには眠たそうな顔をした日向君がいた。また保健室で昼寝でもしていたのだろうか。髪が重力を無視して立っている箇所がある。
「お前寝ぐせ、どうにかしてこいよ。寝起き感あり過ぎだろ」
 滝本君の言う通り日向君は半目でふらついた足取りだった。そんな日向君の後ろから、ぞくぞくと他の緑化委員たちが入ってきた。日向君はふらふらしながらも滝本君の後ろの席に座ったけれど、椅子に座った途端すぐにまた突っ伏してしまった。そんな日向君の頭を勢いよく滝本君が叩いた。
「寝過ぎだろ、バイトが遅いのは分かるけど」
 思い切り不機嫌そうな日向君は、目を細めて滝本君を睨んだ。ブルーグレーの瞳だから、怖いくらい冷たい目つきだ。
 滝本君はもうそれに慣れているのか、バシバシ日向君の背中を叩いた。
「なんだよお前、今日いつにも増して機嫌悪ぃーな」
「なんでカケルが中野といんの……」
「は? 別に委員会始まるの待ってたら中野がそこに来ただけ……あ……そういうことか」
 滝本君は一瞬ニヤッとしてから納得したように頷き、くるっと私の方に振り返った。
「ところで中野ちゃんって本当いいコだよねー。きょうだいとかいんの?」
「あー、お姉ちゃんが一人……」
「へー、俺一人っ子ー」
 意地悪な笑顔で話しかけてくる滝本君に、私はハテナマークを浮かべながら質問に答えた。テンションの上がり方がいまいちつかめないぞこの人。
 そんな滝本君とは真逆にどんどん不機嫌オーラを増している日向君は、もうまるで獣のような目つきで、ニヤニヤしている滝本君を睨んでいた。
「佳澄が感情を顔に出してるの、初めて見たかも」
 なんだか訳が分からないけれど、とりあえずこの二人は本当に仲よしなんだということは分かった。
“俺ってちゃんと友達なのかなーって思うときあるよ”。
 滝本君はさっきそう言っていたけど、そんな風に悩むことはないと思う。だって本当に友達だって思っていなくて、興味がないなら、こんなケンカしないはずだから