「私たちが翔太のこと好きなの? ってちょっとからかったらさ、好きですよ、だったらなんですかって急にムキになってさー」

「あの子、翔太のこと好きらしいよ。ちょっとは転校悲しんであげなよー」

「あはは、そうだよ翔太ー」


望月が、俺のことを好き……?

その衝撃だけが頭の中をぐっちゃぐちゃにして、もう二人の会話なんて微塵も入ってこない。

体育祭の時、あの時望月は一之瀬じゃなくて俺のことを思ってくれていた……?

予想もしていなかたった事実に、頭の中が一気に真っ白になってしまった。

目の前で騒ぐ二人の声がうるさい。俺は、軽く会釈をして、錯乱状態のままグラウンドへと向かった。


「遅ぇーぞ、翔太」

サッカーグラウンドには、既に一之瀬が待ち構えていた。

俺は困惑した様子のまま謝り、すぐにアップを始めたが、上の空の俺にすぐに一之瀬は気づいた。


「何お前、なんかあった?」

「いや、別に……」

「話したいことって何?」


こんなこと、一之瀬には言えない。どう伝えたらいいのか分からない。

俺が言葉を濁していると、痺れを切らしたのか、一之瀬が先に口を開いた。


「俺、もっちーにハッキリ振られたよ。好きな人いるからって」

一之瀬がリフティングしたボールが、高く空に舞い上がった。

俺も一之瀬も、ボールを見つめて一度顔を上にあげる。

俺は一之瀬の言葉にどう反応したらいいか分からず、何も言えなくて、唇を軽く噛んだ。


「その反応だと、気づいたの? もっちーの気持ち」

「……いや、気づいたっていうか、聞いたっていうか……」

「好かれてるのに、どうして距離を置かれてるか分からない?」


真髄を突くような言葉に、情けなくも俺は素直に頷く。

すると、一之瀬が珍しくムッとしたような表情で溜息をついてから、しゃがみこんだ。


「初めて人をちゃんと好きになったのに、どうしてその相手が親友のお前と一緒なんだろ……しかも超がつくほど馬鹿正直のお前と」

「おい、ひと言余計だぞ」

「どっちも大切だから、余計わけわかんねー……」


その言葉に、胸がズキンと痛むのを感じた。

本当だな。望月のことも一之瀬のことも大切だから、こんなに辛いのかもしれない。

一之瀬が望月のことを好きだって知ってるのに、俺はあの日一之瀬を裏切って望月を抱きしめてしまった。