望月は、一切自分から俺には触れてこなかった。





失ってから気づくって、きっとこういうことなんだろう。

あの日から一週間後、望月は十一月末で転校することを、三木達に報告していた。

先生の口からもHRでのそのことが報告され、今まであまり望月に関わってこなかった男子たちも、こぞって彼女に話しかけに行っていた。

慌てて告白したやつもいたって、風の噂で聞いた。

もちろん振られて、それを笑ってるやつも沢山いたけど、俺は笑えなかった。

だって俺も、そんな哀れな男子生徒と変わらない状況にいるから。


「翔太、今日部活休みだけど自主練しようぜ」

HR後、望月に群がるクラスメイトをよそに、一之瀬がいつもと変わらぬ様子で俺の元へやってきた。

俺は教科書を机にしまってから、ゆっくりと立ち上がった。


「行こう、俺もお前に話があるんだ」

「オッケー。俺自販機で飲み物買ってくるから、先にグラウンド行ってて」


そう言って、一之瀬は颯爽と売店へ向かっていった。

俺も一通り荷物を持って、別れを惜しむクラスメイトの声を振り切るように、教室を出た。

やめろよ、本当に望月が、いなくなっちゃうみたいじゃないか。

寂しいとか、ありがとうとか、元気でねとか、忘れないでねとか、そんな言葉今一番聞きたくない。


少し苛立った様子で教室を出ると、ばったり三年生の女子マネージャー二人組に会った。

もう彼女たちは引退しているけれど、化粧も濃くて派手だったので、よく印象に残っている。それによくサボっていたのであまりいい覚えられ方ではないが。

とくに話すこともないと思ったので、軽く会釈をして通り過ぎようとしたが、それを彼女たちが引き留めた。


「翔太じゃん、久しぶり。これから部活?」

「はい、今日は顧問がいないので自主練ですが……」

「そうなんだ、偉いねー。ていうかなんか翔太の教室うるさくない?」

そう言ってひとりが俺の教室を覗いたので、俺は素っ気なくひと言で返した。

「転校してしまう、クラスメイトがいたので」

「え、あの子体育祭の時啖呵切った子じゃん、ウケる」

「え……? 知り合いなんですか?」

啖呵を切るって、あの望月が……?

信じられなくて、俺はつい聞き返してしまった。