そりゃあ、友達として応援したいよね。


……分かるよ、分かるけど、好きな人にそんなこと聞かれたくない。

こんなに苦しいことってないよ。


「星岡君にだけは、そんなこと聞かれたくない……」


ぽろっと、涙と一緒に言葉が剥がれ落ちた。

今まで一度も出なかった涙が、初めてこんなところで容易く零れ落ちてしまった。

どうしてこんなタイミングで。最悪だ。


「必死に忘れようと、してるのに……」

「え、望月……」

「ごめん……またね」


なんて身勝手な発言だろう。何も知らない星岡君からしたら、私の涙の理由なんて想像もつかないだろう。

星岡君は悪くない。一之瀬君に頼んだのも、私なんだから。

それなのに、なぜか涙が溢れて止まらない。

俯いたまま駅に向かって歩いていると、ドンっと思い切り誰かの胸にぶつかった。

謝りながらふと顔を上げると、ぶつかった人物は一之瀬君だった。


「もっちー、座っててって言ったのに……え」


そう言った一之瀬君は、暗がりの中にも関わらず、すぐに私の涙に気づいたようで、濡れた頬をすっと親指で撫でた。

私は首を横に振って、何も返せないから、と彼の腕を静かに払う。それでも涙は溢れて止まらない。


「もっちー、無理に忘れようとすると辛いからやめな」

「なんでそんな、優しいこと言ってくれるの……優しくしてもらっても、私……」

「優しくしてるなんて思ったことない。もっちーの涙を見たくないから、こんなこと言ってるんだよ。ただの俺のわがままだよ」


一之瀬君の優しさが、胸の傷口に直に染み込んでいく。

星岡君のことを忘れて、一之瀬君を好きになれたらどんなにいいだろう。

私は弱いから、そんなことを少し考えてしまった。

だけど、簡単にはそうなれないから、こんなにも胸が痛くて、涙が止まらないんだろう。


恋って、切なくて苦しい。

いつでも楽しいわけじゃないのに、それを分かっているのに、どうして人は恋をするんだろう。

遠くで太鼓を叩く音が聴こえる。

今、星岡君は、あの人混みの中で、ひとりでどんな顔をしているの。