俺は、その一文を見て絶句した。涙も出ないほどショックだった。

雛が確かに俺に告白しようとした想いが、ここに記されている。残っている。

しかも、俺に気がないことを察していて、それでも……。


ふられるって分かった上で告白しようとしていたのに、俺はその告白すら聞いてやれなかったんだ。


「俺……最低だな、ほんと……」

この日から一年経って、徐々に翠とも話せるようになって、罪悪感が少しずつ薄まっていくような気がしていた。

でもそうじゃない。雛の気持ちは確かにここにあって、俺は雛の気持ちを踏みにじった。


もう二度と聞けない。

もう二度と謝れない。


『構うなよ俺にっ』。

いつか、雛に怒鳴った言葉が頭の中で木霊する。

幼いころから一緒にいた、大切な幼馴染に向かって、俺はなんてことを言ってしまったんだろう。


ごめん、ごめんな、雛。

許してくれないだろうけど、俺は一生この罪を抱えて生きる。

このことを忘れない、絶対に。……絶対に。


なんだか、いてもたってもいられなくなって、雛に会えそうな気がして、俺は家を飛び出た。

どこに行くのと聞いてくる母親を通り抜けて、近くの花屋で菊の花を買って、雨が降っているから自転車には乗らずに傘をさして駅まで走って向かった。


……そしていざたどり着いた墓前で、俺は力なく座り込んだ。

灰色で冷たい石の下……雛、お前はそこにいるのか。

何を言っても、話しかけても怒鳴っても泣いても、何も返してくれないのか。


「雛……、ごめんな、ごめん……」


やっぱり、こんな俺が誰かを好きになることなんて許されない。

翠への想いは断ち切って、生きていくしかないんだ。

雨に濡れた墓石にそっと触れてみた。想像よりずっと冷たくて、これはただの石なのだと、何も通っていないのだと、ただただ思い知らされた。


「ひなっ……、ごめん、本当に……うっ……」

……悲しいのか、悔しいのか、寂しいのか、感情に整理のつかないまま涙が出てきて、俺は声を押し殺した。

雛はきっと俺がお墓参りに来ることなんて望んでいないだろう。

きっと、逃げ続けた俺を恨んでいる。

……花なんか手向けられない。帰ろう。

俺は赤くなった目をこすって、一礼して雛から去った。


……誰に何を謝ったらいい。

自分を許さないことがせめてもの誠意の見せ方なのか。