自分でも、なんであんな提案したんだろうって思ってる。

でも、星岡君に幸せになってほしいのは、ほんとだよ。


それだけは、ほんとなんだよ。

胸がちくっと痛むときもあるけれど。


「望月ちゃん、今日も早いね」

「来栖先輩……。私のクラスのHR、短いんです。担任が適当なんで」

美術室でイーゼルを担いで運んでいると、来栖先輩が私に話しかけてくれた。

来栖先輩にモデルを頼んでから、先輩と話す機会は増え、そこに一之瀬君と星岡君がやってくると、自然と四人で集まることが増えた。

まさかこんなに自然と話せるくらい、仲良くなれるなんて思ってもみなかった。

来栖先輩は、今日も胸下まである長い髪をふわりと揺らしながら、私に近づいてきた。


「望月ちゃんの絵、いいよね。構図がバシッと決まってるし、配色も個性があって、望月ちゃんにしか描けないって感じがする」

「いやいや、先輩にそんなこと言っていただけるなんて恐縮です……」

「私のつまらない絵とは大違い。すごいなぁ、そんな絵描いてみたい」


いくらなんでも褒めすぎですよ、と否定しようとしたけれど、先輩は本当に羨望の眼差しで私の絵を見ていたから、言葉を飲み込んだ。

とてもそんな風に言ってもらえるような絵じゃないし、デッサンだって先輩の足元にも及んでいない。

……それなのに、先輩は一体私の絵のどこがうらやましいのだろうか。


「翔太も言ってたよ、望月ちゃんの絵が好きだって」

来栖先輩が“翔太”って呼ぶことは、他の人が翔太と呼ぶのとわけが違う。

先輩が星岡君の名前を呼ぶたびに、胸の奥がズキンと痛んで、なんだか苦しくなる。


「いいなあ、私、翔太に絵を褒めてもらったことなんか、一度もないよ」


先輩は、今も星岡君のことが好きなんですか……?

思わず聞きたくなった言葉を、なん度も飲み込んでいる。

好きなら、その思いを伝えてあげてほしい。星岡君はいつも、先輩のことを切なそうな瞳で見ているから。


私の方が、何倍も、何百倍も先輩のことが羨ましいのに、いいなあ、なんて言われるなんて。

悔しいのか悲しいのかよく分からない気持ちになって、私はつい口火を切ってしまった。


「先輩は、星岡君と幼馴染なんですよね」

「……うん。家族ぐるみの仲なの。親同士が学生時代からの友人同士で」