というか俺、本当に何もせずに終わってしまった……。申し訳なく思ってもう一度改めて謝ると、望月は大したこと話してないから大丈夫、とばっさり答えた。

「星岡君も、資料置きに、教室一旦戻る?」

「うん。全部持つよそれ、貸して」


クラスメイト分預かったそこそこ重い資料を、望月からひょいと取ると、彼女は驚いたような顔で、ありがとうと呟いた。

……望月の印象は、俺の中で、かなり話しやすい女子、という感じだ。

そんなに普段の授業の中で接点はないけれど、一之瀬がわりとちょっかいを出しているので時折話すようになった。

望月は一之瀬のことを心底面倒くさそうにしている時があって、それが顔に出ていて面白いと思っていた。

かわい子ぶってもいないし、サバサバしすぎてもいないし、なんだかちょうどいい。そこが地味に男子にも評価されていることを、本人は知っているのだろうか。

暫く会話もないまま教室まで並んで歩いていると、星岡が俺を見上げて、話題を振ってきた。


「一之瀬君と仲いいよね、星岡君」

「よくねぇよ」

「はは、すぐそういうこと言う」


間髪入れずに否定すると、望月が初めて俺の言葉で笑った。

緊張している顔か、一之瀬を面倒くさがっている顔しか見たことがなかったから、少し不意打ちをくらった気分になった。


「望月も一之瀬と仲いいじゃん」

「やめてよ、よくないよ」


あまりにもズバッと即答したので、俺も思わず笑ってしまった。

やっぱり望月、話しやすいな。人間嫌いの一之瀬が珍しくちょっかい出している理由も分かる。

そうこうしている間に誰もいない教室について、俺は資料を教卓の上にドサッと置いた。


「望月もこれから部活?」

「うん、今絵画コンクール直前で、結構忙しくて」

「そうなんだ、頑張れよ」

……あと、来栖翠と話したことある? 元気でやってる?

そう聞こうとしたけれど、俺はのど元直前でその言葉をぐっとこらえた。

だけど、俺の表情を見て何か言いたげだったことを察したのか、なんなのか、望月が口を開いた。


「来栖先輩が、星岡君のこと気にしてたよ。元気にやってる? って」

「え……翠が……」

「幼馴染なんだね、知らなかった。たまに美術室に遊びに来てよ」


そう言って、望月は無邪気に笑った。