『大切なこと、忘れてるっぽいし』という、先ほどの一之瀬のセリフの意味はこれだったのか。あの野郎、教えてくれればよかったのに。

慌てて窓を開けて、俺はグラウンドに向かって『すみません、今日集まりあるんで遅れます』と叫んだ。

それから、練習着の上から白シャツを着て、俺は全速力で委員会の教室を目指した。




「すみません、遅れました」

勢いよくドアを開けて教室に入ると、一斉に突き刺すよな視線が俺の方向に集まった。

「遅いぞ、座れ」

先生に軽く叱られ、俺は望月がいる席の隣に向かった。

望月は、俺と目が合うと、困ったように笑って、どうぞ、と椅子を引いてくれた。

俺は小さい声でほんとごめん、と謝ってから、望月のとったメモを見せてもらった。

俺たちはどうやら綱引きとリレーの進行を任されたらしい。

「じゃんけん負けちゃって、結構面倒なの任されちゃった、ごめん」

望月がそんな些細なことで、申し訳なさそうに謝ってきたので、俺はなんだか少しからかいたくなって悪態をついた。

「おいよりによって綱引きかよ、許せねぇ」

「いや、ほんとごめん。ごめんなさい」

「じゃんけんもっと頑張れよー」

もちろん怒ってなんかいないし、むしろ遅れてきた俺が謝るべきである。

それなのに、望月は本当にすまない、というように眉をハの字に下げているのが面白くて、ついからかってしまった。

「おい翔太、遅れてきといていじめてんなよ」

面白がっていると、後ろの席の男子が苦笑しながら野次を飛ばしてきたので、そこでようやく望月いじりをやめた。

「え、なに今私、からかわれてたの?」

「そうだよ」

「えっ、そうだよじゃないよっ」

真顔で答えると、望月はムッとした顔で突っ込みを入れてきた。

望月は、鎖骨付近で切りそろえられた髪の毛をくるんとワンカールで内巻きにしていて、色白で元から色素が薄いせいなのか、髪の毛も茶色い。

日に透けたその色がオレンジ色で奇麗だな、なんて思いながら、俺は望月の突っ込みを聞き流していた。


……そういや望月も、翠と同じ美術部なんだよな。翠と話したこととか、あんのかな。


「星岡が来たばかりだけど、ちょうどポジションも決まったので今日は終わりだ。次は本番一週間前に集まるからな」

先生が軽く俺に向かって嫌味を言ってから、教室を出て行った。