彼女が不倫相手と出会う日が予知できるまで、予知し続けてほしい。
不倫相手と出会う日に、旦那さんになんとかその場所で鉢合うように仕掛けるというのが私の計画だった。
私は彼女が不倫していることを知っていた。
なぜなら彼女の旦那、良知先生は当時(小学六年生時)の担任であり、顔を知っている。
画材を買うために隣町まで行ったとき、ふくよかな男性と親しげに話している彼女を見かけ、それは良知先生ではないことは一目瞭然だった。
また、ただの友人関係や親族関係でないことも、子供ながらになんとなく察知した。
下田講師の表情が、葵や葵の家族に見せるそれではなかったからだ。

不倫現場を見たのは、葵が聴力を失った後のことで、最近のことだった。
この情報は何かに使える。良知先生には悪いけれど、絶対に彼女に復習してやる。私はそう誓って、その現場の映像を脳に焼き付けた。

葵の能力を、こんな風に悪事に使うなんて、いいのかな。
そのことが少し引っかかったけれど、葵は頷くことも拒否することもせずに、自分の能力がどれだけ正確なのか知りたい、とだけ私に伝えた。
小さい町だ。不倫なんて知られたら、噂はあっという間に広まってここに住んでなんかいられなくなる。
こうして私達は、ひとりの人間をこの町から消す計画を企てた。
私は子供だから、その人の背景を見ることを知らなかったし、目に見えるものが全てだったし、根拠のない楽観視を軽率にしていた。

なにも知らない、ということは、なんて恐ろしいことだろう。
けれどその時の私は、葵を追い込んでしまっていたかもしれない罪意識を消すために、必死に葵のために何かをしてあげたいと、そういう気持ちでいっぱいで目の前が見えていなかった。
葵はそのことに気付いていて、煮え切らない不安げな表情をしていたのかもしれない。

結果として、計画は成功した。
美術クラブの画材の買い出しに行きたいのでついてきてほしい、という理由で先生を誘い、私は良知先生を不倫を目撃しいあの場所に読呼んだ。
葵の読みでは、日曜日の昼間に下田講師と不倫相手がデートをしていることになっていた。
その読みは見事的中し、見事に三人を鉢合わせることに成功した。
良知先生は激怒し、不倫相手は逃げだし、下田講師は泣いていた。
泣き顔を覆った指の隙間から、鬼のような形相で私を睨んでいることに気付いた時は、背筋が凍る思いをした。