「ということは、俺が痣のない絵を描いて、薊がなにかしたら、現実の百乃さんの痣は消えるってことか。それってすごいな」
彼女の様子が気にはなったものの、話を停滞させてもいけないと会話を続ける。しかし俺の最後のことばにまたしても三日月紫苑が鼻で笑った。
「左様。前もって説明しておきますが、この力は人間には効きません。あくまで妖だからです」
「え、なんで」
「ここに先ほどの薊のことばが関連してきます」
「人間がいないと存在できないっていう?」
「ええ、物覚えも良さそうで助かります」
にっこりと微笑まれたものの、誉められた気はしない。嫌みったらしくないだけましだけれど、素直に喜ぶ気持ちになれないのはなぜだろう。
「わかりやすく言えば、私たち妖を生み出したのは人間です」
「俺らが?」
「はい。あなたたち人間が、闇や病、災害を恐れたことによって、妖というものは生まれました。平たく言えば驚異は全てそういう妖がいて、そいつらの仕業である、と悪役を作ったのです」
「ああ、雷は神の怒りが、とかいう感じの」
「まあ神はまたすこし別ですが、だいたい、そういう認識で間違いではありません」
誰も口は挟まなかった。三日月紫苑にとっては既知のことなのだろう。
「そして妖が今もなお存在しているのは、あなたたたち人間が、その存在を知っているからです」
雲母は淡々と続ける。
「たとえばあなたは、妖狐という妖を知っていますか」
「え、ああ、一応」
「では妖狐とはどういった妖ですか」
「どういった……って、九尾の狐だっけ、ああいうイメージで尻尾が分かれていて……あとは美形というか妖艶にに描かれていることが多いような……あ、安倍晴明の母親が白狐だった気がする」
頭に出てくるのはすべて昨今のアニメや漫画で見たようなキャラクターたちばかりだった。さすがにそれを正直に述べてはなるまいとことばを選ぶ。
「結構。あなたのように人間の大多数が妖狐のイメージを持っている。それが重要です。それがたとえ畏敬の対象ではなく、コミカルなキャラクターだとしても、人間に忘れられないこと。それによって私たちは存在しうるのです」
「つまり俺たちが忘れれば存在も消えると」
「まさに。ありがたいことにあなたたち人間は私たちを漫画やアニメーションの世界に取り込んでくださいました。今しばらくは大丈夫かと思いますが、希少種ももちろんおります」
一応そこは遠慮をしたのだが、妖である本人に良しとされていた。意外と彼らは柔軟なのかもしれない。第一、自分たちの生命が関わっていることでもある。
「ちなみに私と百乃は妖狐の一族です」
「ああ、だからお二人とも美形なんですね……」
言われて納得する。キャラクターのように耳も尻尾もないけれど、イメージはできたしよく似合う。
「そういうことです」
「大層なご自信で……」
「違います、見た目の話ではなく、今のあなたが納得したことです。私自身の造作が整っていることなど、誰に言われずとも自分が一番理解しております」
ずばっと言われたことばに口が開いた。
ナルシストというレベルではない。雲母はそれに自惚れるわけではなく、単なる事実として認識している様子だ。
思わず隣を見る。視線に気づいてくれたのか、顔をすこし向けてくれたが、その顔だって整いすぎなぐらい整っている。その流し目に心が冷えた。
彼女の様子が気にはなったものの、話を停滞させてもいけないと会話を続ける。しかし俺の最後のことばにまたしても三日月紫苑が鼻で笑った。
「左様。前もって説明しておきますが、この力は人間には効きません。あくまで妖だからです」
「え、なんで」
「ここに先ほどの薊のことばが関連してきます」
「人間がいないと存在できないっていう?」
「ええ、物覚えも良さそうで助かります」
にっこりと微笑まれたものの、誉められた気はしない。嫌みったらしくないだけましだけれど、素直に喜ぶ気持ちになれないのはなぜだろう。
「わかりやすく言えば、私たち妖を生み出したのは人間です」
「俺らが?」
「はい。あなたたち人間が、闇や病、災害を恐れたことによって、妖というものは生まれました。平たく言えば驚異は全てそういう妖がいて、そいつらの仕業である、と悪役を作ったのです」
「ああ、雷は神の怒りが、とかいう感じの」
「まあ神はまたすこし別ですが、だいたい、そういう認識で間違いではありません」
誰も口は挟まなかった。三日月紫苑にとっては既知のことなのだろう。
「そして妖が今もなお存在しているのは、あなたたたち人間が、その存在を知っているからです」
雲母は淡々と続ける。
「たとえばあなたは、妖狐という妖を知っていますか」
「え、ああ、一応」
「では妖狐とはどういった妖ですか」
「どういった……って、九尾の狐だっけ、ああいうイメージで尻尾が分かれていて……あとは美形というか妖艶にに描かれていることが多いような……あ、安倍晴明の母親が白狐だった気がする」
頭に出てくるのはすべて昨今のアニメや漫画で見たようなキャラクターたちばかりだった。さすがにそれを正直に述べてはなるまいとことばを選ぶ。
「結構。あなたのように人間の大多数が妖狐のイメージを持っている。それが重要です。それがたとえ畏敬の対象ではなく、コミカルなキャラクターだとしても、人間に忘れられないこと。それによって私たちは存在しうるのです」
「つまり俺たちが忘れれば存在も消えると」
「まさに。ありがたいことにあなたたち人間は私たちを漫画やアニメーションの世界に取り込んでくださいました。今しばらくは大丈夫かと思いますが、希少種ももちろんおります」
一応そこは遠慮をしたのだが、妖である本人に良しとされていた。意外と彼らは柔軟なのかもしれない。第一、自分たちの生命が関わっていることでもある。
「ちなみに私と百乃は妖狐の一族です」
「ああ、だからお二人とも美形なんですね……」
言われて納得する。キャラクターのように耳も尻尾もないけれど、イメージはできたしよく似合う。
「そういうことです」
「大層なご自信で……」
「違います、見た目の話ではなく、今のあなたが納得したことです。私自身の造作が整っていることなど、誰に言われずとも自分が一番理解しております」
ずばっと言われたことばに口が開いた。
ナルシストというレベルではない。雲母はそれに自惚れるわけではなく、単なる事実として認識している様子だ。
思わず隣を見る。視線に気づいてくれたのか、顔をすこし向けてくれたが、その顔だって整いすぎなぐらい整っている。その流し目に心が冷えた。