唯一友達と話す帰宅途中で、友達の言葉を何回か聞き返してしまったら、友達を怒らせてしまったときがあった。

だって本当に聞き取れなかったんだよ、という言葉を飲み込んだ。

どうしようもなかった。自分でも分からなかった。言葉が頭に入ってこない。音としてしか聞き取れない。どうして?


自分でもどうしようもないことを、誰かに分かってもらえるはずはない。


私は、深く帽子をかぶって、ぐっと涙をこらえた。

そしたら、ぽんぽんと、その帽子を誰かが撫でた。


「おい、ちいー達!」


帽子の下の狭い視界で、紺のブレザーと自転車が横を通り過ぎた。


「わ、コウちゃん先輩じゃん、制服着てるー!」

「あのなあ、マメは帰国子女なんだ。前まで海外に住んでたんだ」

「え!? そうなの!?」

「そうだ。だから一回で上手く聞き取れないんだ。もしお前らの母ちゃんが年取って耳悪くなったら、お前らは母ちゃん無視すんのか? 」

「……しない」