大丈夫、どきどきしてるわけじゃない。だいぶ冷静に、颯太くんを観察できるようになってる。だいぶ進歩してる。

そんな自分にほっとして、わたしも再び宿題に取り組みはじめた。
夕方五時になると、図書館に音楽が流れる。わたしはその音楽を合図に机にひろげていたノートや教材をを片付けた。と、颯太くんもばたばたと片付けはじめ、わたしの英語のノートを片手に一緒に自習室を出た。

「理緒、さんきゅ」

「もういいの? 終わった?」

せかしてしまったかなと思ったけれど、颯太くんは気にしていないようだった。

「とりあえず、大丈夫。……また見せて。よろしく」

「あのねえ、自分でやる努力もしてね」

そんなふうにたわいない会話をしながら図書館を出た。

涼しかった館内とはうってかわって、むっと重くて暑い空気が身体にまとわりついてくる。思わず「あつーい」と声が出てしまう。

「理緒、英語のお礼におごってやるから、八幡のお祭り行こうぜ」 

八幡様のお祭りは八月の頭に行われる、ここらへんでは一番大きなお祭りだ。各町内がお神輿を出して、大人から子供まで総出でかつぐ。神輿が通り過ぎるときの迫力はかなりのもので、毎年それを見るためにかなりの人出になる。

屋台もたくさん立ち並び、わたしもえれなと子供の頃から遊びに行っていた。

「じゃあ、えれなも誘うね」

そう、颯太くんはえれなと行きたくて、それでわたしをだしにしようとしてるんだろうと思ってそう言った。
と、颯太くんが「んー」となぜだか微妙な顔をした。