「あっ、ごめんなさい、C組の望月です」


慌てて名前を告げると、彼方くんは目を丸くして、それから小さく噴き出した。

そのまま彼は俯いて口許を覆いながらしばらく笑っているので、私はどうすればいいか分からず、黙って佇んでいた。


「ははっ、ごめんごめん、笑っちゃって」

「……いえ。あの、何かおかしかったですか……」

「あははっ」


彼方くんはもう一度笑い、それから「ごめん」とまた謝った。


「なんかすごく丁寧だからさ、おかしくなっちゃって」

「え?」

「わざわざ名前名乗るし、なぜか敬語だし」

「……初めて、話すから」


なんとかそれだけ返すと、彼方くんはにっこりと笑った。

目尻が下がって、とても優しい表情になる。


いつも遠くから見ていた笑顔。

今日はこんなに近くで見ている。

しかも、これは私だけに向けられた笑顔だ。


なぜか目頭が熱くなって、泣いてしまいそうだった。

私は慌てて瞬きをして、滲み出した涙を引っ込める。


「話すのは初めてだけど、知ってたよ」

「……え?」


首を傾げると、彼方くんが私を軽く指でさした。


「C組の望月さん。広瀬さんとか岩下さんとかとよく一緒にいるよな。なんか目立つ四人組だからさ、知ってたよ」


広瀬というのは遥の名字だ。

岩下は香奈の名字。


そうか、可愛くて美人で目立つ三人と一緒にいるから、私まで認識してもらえていたんだ。