「――何してんの」


目の前の絵に心を奪われていたので、突然声をかけられたときは、びくりと肩が震えた。


振り向くと、光に満ちた真っ白な廊下の真ん中に、青磁が立っていた。


窓から入ってくる光と風を受けて、真っ白な髪が銀色にきらきらと揺れている。


眩しくて、思わず目を細めた。


「なんでこんなところに座ってんだよ、茜」


いつものように、別に、と答える気にはなれなかった。

ぼんやりと見つめ返していると、青磁は怪訝そうな顔になって、ゆっくりと近づいてくる。


そして私の目の前で中腰になって、驚いたように目を見張った。


「……なんで、泣いてんだよ」


こんな顔を見るのは初めてだった。


「腹でも痛いのか」


眉根を寄せて訊ねてくる彼に、違う、と小さく答える。


「……青磁の」


と続けると、間近にある硝子玉の瞳が、また色を変えた。


「青磁の絵が、あんまり綺麗だから……」


自分でも驚くほど素直に、そんな言葉が唇からこぼれ落ちた。


廊下の突き当たりにある、『光』と題された絵を指差して、繰り返す。


「あの絵を見たら、涙が止まらなくなった」


青磁も私の指先を追うようにしてその絵を見上げた。

二人で並んで、彼の絵を見つめる。


しばらくすると、横でふっと小さな笑いが聞こえた。

見ると青磁が口角を上げてこちらを見ている。